-作物生産における土壌有機態窒素の重要性を解明-
昨年6月になりますが、理化学研究所等の共同研究グループは、農業現場でのマルチオミクス解析により農業生態系における植物-微生物-土壌の複雑なネットワークのデジタル化に成功し、これまでは熟練農家の経験として伝承されてきた高度な作物生産技術を科学的に可視化できるようになったとプレスリリースしました。https://www.riken.jp/press/2020/20200609_2/
以下、私smallfarmerがその内容をまとめてみました。
研究の背景
資源循環プロセスの中でいかに土壌の豊かさを維持しつつ、新たな原料や食料となるバイオマス(生物由来の資源)を持続的に生産していくかがSDGs的にも喫緊の課題となっています。環境低負荷型の農業を実現していくため、農業生態系をトータルで理解する必要がありますが、農業生態系は植物と微生物と土壌が複雑に関係していて、これまでの各階層での単独解析のみでは農業環境の実態を部分的にしか解明してこなかったとしています。
研究手法(農業生態系のデジタル化)
耕起した畑をビニールマルチで数十日間覆うこと(太陽熱処理)により、土壌中の病害虫や雑草種子を死滅させ、農薬を使わずに良好な土壌環境を維持している有機農家の圃場にてコマツナを試験栽培して、核磁気共鳴(NMR)法による代謝物質のプロファイリングを行いました。続いて、次世代シーケンサーを用いて土壌および根圏における細菌叢を解析、そして全てのデータを統合した相関ネットワーク解析(マルチオミクス解析)を行ったということです。
研究成果
今回の研究では、太陽熱処理は同等の品質を維持した上で、コマツナの収量を増加させることを化学的に解明しました。
農業生態系は作物が示す特定の形質(収量や品質など)と特定の微生物種や土壌成分で構成されたモジュールが複数組み合わさってネットワークを形成していることが明らかにし、有機農法の一つである太陽熱処理により植物根圏に特徴的な細菌叢が形成され、土壌中に蓄積する有機態窒素が作物の生育促進に関与していることも見いだされました。さらに、同定した土壌有機態窒素のうちアラニンとコリンが、窒素源および生理活性物質として作物生育を促進することを証明しました。
本研究成果は、化学肥料に頼らず有機態窒素を活用することで、持続可能な作物生産が可能であることを示し、環境共存型の新しい農業に向けた持続的な作物生産の実現に貢献するとしています。
今後の期待
本研究プロジェクトで示したマルチオミクス解析による農業生態系のデジタル化は、篤農家の匠の技として伝承されていた有用な作物生産技術などを科学的に可視化する新しい手法であり、今後の農学分野における解析アプローチの主流となると期待できるとしていますが、ここは統計解析に詳しくないのでよく分かりません。複雑系の生態系のなかの農業生態系のことが、今回も一部分の解明に思えますし、トータルでどこまで分かるかは不明です。
また、その複雑さゆえにこれまで十分に解析されていなかった、自然の物質循環である有機物と根圏細菌叢の相互作用がもたらす農作物への効果を強く示唆しています。そのため本研究の発見により、有機物から分解する有機態窒素や根圏細菌を利用した新しい農法の技術が開発され、農業を工業的センスで推進する「農業環境エンジニアリング」への道が切り拓かれるものと期待できるとしています。
今回は有機農法で土壌中での植物と微生物等の共生関係を有効に活用していることのエビデンスが一つできたという位置づけで、持続可能な農業が広がるのを支援してくれると思います。今後さらに研究が進み新たな知見が得られ、具体的に農業で利用されることを楽しみにしています。
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